YKKに学ぶ中国式人事制度・・・中国式「目標管理制度」、キャリアアップできる職場「発展空間」を重視する中国人のキャリア志向
6月22日 日経産業新聞からの抜粋+一部編集です。
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YKKに学ぶ、中国での現地人材活用法、キャリア設計明確に、スキル上がれば昇進
進出した中国で現地の優秀な人材を確保することに頭を悩ませる日本企業は多い。
ファスナー世界最大手のYKKは成果主義による「目標管理制度」でスキルが上がれば昇給できる制度を整備。
研修制度を通じ管理職の育成にも成功している。
中国の人材戦略で先行する同社の取り組みを追った。
「今日は内陸部の営業戦略について議論します」。
YKKの中国統括会社であるYKK中国投資社(上海市)の経営会議。
現地法人の社長や副社長などの日本人幹部が居並ぶ中、会議室には部長級などの中国人幹部も参加する。
従来の経営会議は日本人のみが出席していたが、2004年ごろから現地の社員も参加。
経営の実情を理解してもらい
「スキルを高めれば幹部に昇進できる」
という意欲を高めてもらう狙いがある。
現地の人材向け人事制度の改革はまず、課長級以上の管理職や営業・事務職などのホワイトカラー向けに始めた。
ポストと報酬を連動させた「目標管理制度」を05年ごろから導入。
役職ごとに目標を設定し、1年に1回程度の評価を通じ、スキルが上がれば等級・報酬も高まる仕組みにした。
従来は昇進・昇給が不明確で、現地社員の不満につながっていた。
新制度ではスキル向上に向けて努力を促しやすい。
地元の人材から幹部を育てるため、研修制度も実施している。
マネジメントや経営分析、事業計画策定など経営大学院さながらの講義を1カ月に1回ほど開催。
これまでに数百人が受講した。
中国の人はキャリアアップできる職場を「発展空間」と呼んで重視する。
こうしたYKKの取り組みは、この中国人のキャリア志向を考慮したものだ。
頻繁に転職する習慣を持つ中国人はスキルと報酬を効率的に高めることを重視する。
「『YKKで働けばステップアップできる』と感じてもらえれば、離職率を抑えやすい」
(人事開発グループリーダーの日比野昭則氏)
という。
優秀な人材を引き付けるために欠かせないのが適正な給与水準だ。
コンサルティング会社を活用し、中国で事業を展開する約3000の外資系企業や国有企業の給与額を調査。
課長級以上の社員では平均で上位25%に入る給与額を目標水準に設定している。
「給料は将来どの程度にまで増えますか」。
中国人は採用面接で待遇を率直に質問することが多い。
このため応募者が将来のキャリアを描きやすいよう、同社は採用面接で内情を包み隠さず説明する。
YKKの中国現地法人12社の社員数は約9000人。
課長級以上の管理職に就く現地社員は約160人だが、各種の取り組みが奏功し、過去1年間の離職者はその数パーセントにとどまる。
管理職などのホワイトカラーのみならず、ファスナーを製造する工場作業員向けにもスキルと等級、報酬を連動させた人事制度を整えた。
これまで7割程だった離職率は3~4割程度に抑制できたという。
YKKは1992年に中国に進出。
当初の幹部はほぼ日本人のみだったが、急成長する中国市場の開拓には現地人材の育成が不可欠だと判断。
人事制度の抜本的な改革に乗り出した背景がある。
世界全体で年間200万キロメートル超に及ぶファスナー生産量のうち、中国は05年度時点では約20%だったが、10年度に25%へ拡大。
グローバル展開の中核に成長した中国事業は人材戦略の成功が支えとなっている。
中国に進出した日本企業は、YKKのように人材戦略で成功している会社ばかりではない。
「中国では5人を採用しても、きちんと育つのは1人か2人」。
ある建材メーカーのアジア事業担当者はこう嘆く。
日本語が話せても専門知識が乏しく、実務をこなせる社員が不足しているという。
同社の場合、現地での知名度も低いため、離職率の高さが悩みだ。
中国では急速な経済成長を背景に人件費が高騰。
人材確保や高い離職率に頭を抱える日本企業は増えている。
こうした企業には、YKKの人材戦略が参考になりそうだ。
◇専門家は日本企業の中国での人材戦略をどう見ているのか。
上海で人事コンサルティング事業を手掛けるインテリジェンス・アンカーコンサルティングの金鋭総経理に聞いた。
――人材確保が進まない日本企業の問題点は。
「日本企業の弱点は低い給与水準だ。
日本企業の場合、中国での新卒の平均月給は3000~3500元、課長級で1万~1万5000元。
欧米企業は日本企業の約1・5倍を支払っている」
「中国人は職場を選ぶ際、自分の人生をその企業に預けていいのか、企業のミッションに自分のキャリアが合っているのかを判断する。
日本企業の問題点は昇進・昇給に透明性がないことだ。
昇進・昇給を上司の属人的な判断で決めることもある。
欧米企業のように発展空間を意識した人材制度を構築し、スキルと賃金上昇のひもづけを明確にすべきだ」
「中国法人の権限の低さも問題だ。
東京本社の指示を待つだけでは中国人社員のモチベーションを高めにくく、人材戦略の改革も実行しにくい」
――人材戦略に悩む日本企業への助言は。
「事業の戦略を明確にすることが第一だ。
中国は世界の工場から、付加価値の高い製品やサービスを求める市場へと急速に変化している。
生産・開発・販売など、中国事業がどの段階にあるのかを意識して事業計画を策定し、採用したい人物像を明確にすべきだ」
「優秀な人材確保にはスキルに見合う適正な給与額を示す必要がある。
成長戦略で人材が必要だと判断すれば思い切って投資する必要がある」
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異文化経営学会でも取り上げられていた、日本企業の海外進出に関する失敗事例。
今回の中国進出の話にもある通り、ポイントは色々とあります。
・給与水準の低さ
・現地法人の権限移譲の少なさ…日本本社の権限の強さ
・昇進・昇格の属人性の高さ…不透明な昇進・昇格・人事制度
など、多岐にわたります。
日本固有の雇用制度・人事制度は、外国人にとってはなじみのないもの。
「まだ早い」
「自己成長してからだ」
という不明確な発言を日本人は良くしますが、外国人はその文化を嫌います。
当たり前と言えば当たり前の話ですけれども。
ここでも問題になるのは、他国の文化・風習の理解です。
文化の理解は、一朝一夕で学べるものではありません。
無意識にやっている事も含めると、長い時間がかかるものですよね。
海外現地法人のトップに、日本人の多くが就任しているのも日本企業の特徴です。
外資系の企業は、海外現地法人は現地採用した現地人であることが多いのです。
まだまだ日本企業の多くは、外国企業に比べグローバル化の歴史が浅く、かつ文化がグローバルスタンダードではなく特殊なのですよね。
日本の文化は、世界の中でも特殊な部類に入る。
その理解が、まずは大切なのかもしれません。